Reference:
Experts Fear Taiji Mercury Tests Fatally Flawed

JAPAN TIMES ARTICLE/MAY 23, 2010/Special report by Boyd Harnell

5月23日にジャパンタイムズに掲載された、ボイド・ハーネル氏の記事の翻訳です。太地町住民を対象に行われた毛髪検査に関する記者会見について報じたものです。

5月10日、第一面に掲載された「太地町住民の検査で高い水銀濃度」という見出し記事のなかで、ジャパンタイムズは、国立水俣総合研究センター(以下、国水研)が行なった検査結果から「鯨やイルカを昔から食べる習慣のある和歌山県太地町の住民の毛髪から、極めて高い濃度のメチル水銀(MeHg)が確認された」と報道した。

特に昨年行なわれた太地町住民1,137名を対象にした調査では、男性のメチル水銀平均値は、11.0ppm(parts per million)、女性の同平均値は6.63ppmであった。それに対して他の国内14地域の平均値は男性2.47ppm、女性1.64ppmだった。

しかし、5月10日の報道は、「なぜ太地町住民に一人も水銀に関連する健康被害が出ていないのか、専門家は、全く説明できないでいる」と述べ、また、国水研の岡本浩二研究所長によれば、国水研は今後も、なぜ症状が確認されなかったのか、「原因解明の調査を続ける」としている。

引き続き行なわれるこの調査では、すでに調査を受けた太地町住民で最も高い水銀値を示した182名に焦点を当て、国水研の中村政明総合臨床室長による検査がさらに行なわれることになるだろう。中村博士の調査結果では、43名の住民が50ppm以上のメチル水銀値を示し、内一人には139ppmの数値が確認されている。

それにも関わらず、5月9日に行われた国水研主催の記者会見では、検査を受けた住民は全員健康であると宣言された。国水研は、高水準の水銀が確認された住民43名に対して、何ら食生活への勧告を行なわなかった。記者会見の報道によると、岡本氏は「何を食べるかは、彼らが自分で決める事が重要だ。」と述べている。

この岡本氏の太地町住民に関する発言は、三大陸で評価の高い医学関係の複数の権威者から冷笑を買っている。太地町は、毎年行なわれているイルカ猟を題材にしたドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」(2010年長編ドキュメンタリー部門オスカー賞受賞)の舞台になった町である。太地町の住民調査の結果が国水研にから発表される前に、ジャパンタイムズは岡本氏を取材した。水銀摂取は危険であるか彼の意見を聞いたところ、岡本氏は「現時点では(イルカ肉の消費による)人への問題は認められない」と述べた。

神経損傷を検知するために導入される標準二点識別覚検査について聞かれた岡本氏は、「日本では、神経科の専門医はこの(知覚)検査を定例検査とは認めていない」と語った。

しかしながら、1950年代に九州の熊本県水俣市で世界史上最悪の水銀汚染中毒が発生し、2006年、日本の最高裁判所はその生存者への賠償金を算定するのにこの検査を標準検査として認定している。水俣市及びその周辺の町では、汚染された水俣湾産の魚介類を食したことで、周知のように1,787人の犠牲者が、メチル水銀中毒で死亡し、何千人もの人々が世に「水俣病」として知られる病に冒された。

日本の最高裁判所が認定するこの知覚機能の二点識別覚検査は、水銀による脳障害を検知する臨床検査である。また、浴野成生氏が共同研究でメチル水銀による大脳皮質(脳)及びニューロン(神経組織)への影響を診断する際に用いた検査でもある。浴野氏は、九州熊本県にある熊本大学大学院医学研究部教授で、水銀被害を受けた水俣病患者の脳検体の研究で知られている。浴野氏はまた低数値のメチル水銀でも取り返しのつかない脳損傷を引き起こす可能性があることを示す論文を出版している。

浴野氏は、知能的障害を突き止めるために二点識別覚検査を用いる。これには次のことが含まれている。つまり、被験者が目を閉じた状態で仰向けになり、コンパスの先で一点もしくは二点、被験者の親指、人差し指、または唇に触れて行なうものである。二点に触れても一点の感覚しか得られない被験者は、体性感覚皮質(触感を司る部分)に障害があると考えられる。同氏は水銀被害を受けた水俣病患者の脳検体から、少量の水銀値でも回復不能な障害が生じる事を明らかにした画期的な研究で知られている。

一方、太地町住民に対して「何を食べるかを自分で決める事が重要だ」と岡本氏が助言した件に関し、デンマーク管理下にあるフェロー諸島保健所の産業医学部医長パル・ウィーヘ博士は、「これは不適切なアドバイスです。わたしたちは長期に渡り、神経学的、生理学的、心理学的な検査のすべての数値について不可逆的な悪影響があるという結果を見てきています。」と語る。

ウィーヘ医師はまた、小児科における研究も行ない、1986年に新生児であった対象者を、7歳時、14歳時、そして23歳時となった昨年まで検査した。その検査には、一名の産業医学及び神経学の専門医師、二名の心理学者、そして一名の神経小児学を専門とする小児科医が携わった。

ウィーヘ医師は、この研究から明らかになった注意力欠如障害、記憶維持障害、どの年代でも恒久的に残る神経系症状含む、広範囲な症状について言及している。「わたしたちは、メチル水銀による心拍変動といった心臓血管系統への影響や、PCB、DDTのような有機塩素物質及びその他の汚染物質を著しく含む鯨肉の脂肪を摂取することによって起こる免疫系統への悪影響を見てきました。・・・セレン(Se)が(メチル水銀の毒性を)防御する事に関しての所見はなく、国水研のセレン拮抗作用説は不確かであります。」

坂本 峰至氏(国水研の毒物学者)を含める日本の研究者らの、胎児期におけるメチル水銀曝露の共同研究は、ウィーヘ医師の研究結果を裏付けるものである。「日本人口における母体と臍帯血(赤血球)の水銀と重金属の概説」と題した研究は、メチル水銀が胎盤を通過し胎児へ移行するのに対し、セレンがそれを防御する効果は極めてわずかだったことを明らかにした。

浴野氏による大脳皮質への水銀の神経毒性作用に関する研究について、ウィーヘ医師は「間違いありません。それは、私たちが長い年月をかけて研究してきたことです。・・・そして、私たちが水俣で見てきたことが、もっと低量の水銀摂取が原因で、フェロー諸島でも起こっているのです。」と述べた。

認定された10カ所の研究所で複数種の太地産のイルカ肉を検査した結果、最高値で14.3ppm(日本政府が定める暫定的規制値0.4ppmの36倍)もの数値が確認された。太地産のイルカ肉に高濃度の水銀が含まれている事実に関して同氏は、「私の見解としては間違いなく消費者の健康を脅かすものです。・・・こちらでの(ゴンドウクジラ、イルカの一種)の平均濃度は2ppmです。」と言っている。

「私達はゴンドウクジラの肉をもはや適切な人間の食べ物としては考えていません。」と同氏はつけ加える。事実、地元住民の激しい反対があったにも関わらず、2008年12月1日、ウィーヘ医師は、住民のゴンドウクジラ肉の消費を中止するようフェロー諸島政府に対して勧告することに成功した。

しかし、ウィーヘ医師はエコテロリストなどではない。太地町と同じように鯨類を捕えて食すという地元の伝統文化が存在するフェロー諸島の出身者で、彼自身も若い頃に猟に参加し、ゴンドウクジラの肉を食べた経験がある。そして、今もその伝統を尊重するといっている。しかし、「健康問題は伝統よりも重要なのだ。」と強調する。

匿名を希望するトップクラスの日本の医学研究者の一人は、太地町住民に何も水銀被害がないと宣言した国水研の発表を激しく非難している。「誰一人として水銀被害の兆候がないなら、それは奇跡だ。もし仮にそれが真実だとしたら、すべての科学的研究と矛盾する。あるいは、たぶん日本人は超人だ。」

この研究者が脅しや研究資金の撤回を恐れて直ちに匿名を要求したのと同様に、日本の現地メディアは太地町のイルカ猟とそれがもたらす有毒なイルカ肉に関して、ほとんど話題にしない。実際この記事を書いている私自身も、何度となくこの話題は掲載するには「あまりにセンシティブすぎる」と編集部から言われているのだ。

日本国民が有毒なイルカ肉を食べ続けることをよしとした国水研の承認に対する疑問を無視する、どのような動きが日本にあるとしても、米国の一流の神経科医でフロリダを拠点にしているデイビッド・パーマッター博士(脳疾患研究により機能性医学部門で名誉あるライナス・ポーリング賞を受賞)の発言を抑制することはとてもできないことである。

最近の電話インタビューで、パーマッター博士はこう語った。「私の見解ではイルカ肉から検出されたメチル水銀値は極めて危険です。低数値の水銀でも血液脳関門に害を及ぼし、脳内の炎症反応を増進させることを証明した研究が発表されたばかりです。」

彼はこうも付け加える。「これらの(メチル水銀の)数値は劇的に上昇している。イルカ肉を食品として提供することは、人々に毒を盛っているのと同じです。自分にヒ素を盛っていると言ってもいい。そのくらい害があるのです。彼らがしていることはどれをとっても誤りだ。人間に対してもイルカに対しても間違っている。どう見ても道理に反している。これは悲劇であり、非難されるべきです。政府の役目が国民を守ることならば、彼らは残念ながらその役目をまったく果たしていません。」 

一方、日本の国立社会保障・人口問題研究所は、2007年度の太地町における死亡者数は人口約3,500人中67人としている。全国で大体同じような規模の人口をもつ他の村と比べ、その死亡率は全体的に50%も上回っている。また、やはりイルカ肉が食されている太地町西方の町、古座川町での死亡者数は高く、2007年には人口3,426人に対して82人であった。

およそ類似した人口数の市町村と比較してみると、鳥取県日吉津村は人口3,110人に対し31人、福島県赤村は3,387人に対し29人、京都府の南山城村は3,369人に対し37人、福島県の北塩原は3,307人に対し38人、青森県の蓬田村は3,370人に対し35人であった。

年齢別のデータや死因に関するデータは調査機関から入手できなかったが、バランスのとれた確率からすれば、早期の死亡、つまり、長期間にわたって高数値の水銀を含む食品を摂取した影響に起因する水銀関連の死亡が示唆されているのかもしれない。これは、もちろん、確定的なものではなく、水銀の長期的影響による免疫系統の抑制、心臓血管及び中枢神経系の損傷、著しい神経機能の減退といった上記の科学的研究に基づいた一つの仮説にすぎない。

米国の内科医で水銀専門家でもあるジェーン・ハイタワー博士は、EIA(Environmental Investigative Agency:ロンドンを拠点にする国際的活動家団体で、水銀に汚染された魚介類の摂取による健康被害に関する資料を収集している)の職員クレア・ペリーとの対談で次のように述べている。「体内に2ppmもの高数値の水銀が蓄積した人は、心臓発作で死亡する確率が3倍高くなります。数多くの研究で、メチル水銀は人間にとって有毒である事が証明されています。日本政府は限られた不十分な研究から、消費者が高濃度の水銀に曝されることを承認しましたが、これは、惨事を招く可能性をはらんでいます。日本でトップクラスの数人の医学研究者による信憑性のある共同研究は、日常的に無視されているようです。」

日本の厚生労働省は何年ものあいだ小型鯨類の水銀問題に気づいている。それにも関わらず、依然として、そのような食品の販売禁止を拒んでいる。今や、普通に食べるなら水銀汚染食品は安全に摂取できるという無頓着な国水研のお墨付き宣言のおかげで、親しみのある海洋哺乳動物が、料理されて人間の皿の上にのせられ、ペットフードに混ぜられ、絶滅するまで海外に輸出されることが、ますます目にされることになるだろうと予想される。

元記事:
http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/fe20100523a1.html

※ボイド氏の希望で、和訳には追記した箇所があります。